日本の離島ハチミツ、その知られざる魅力と真実

はじめに:なぜ今、離島のはちみつが注目されるのか?

日本の食卓に並ぶはちみつのうち、国産品がどれほどの割合を占めるかご存知でしょうか。驚くべきことに、その自給率はわずか約6%に過ぎません。

残りの9割以上は、その多くを中国からの輸入品が占めています 。この数字は、国内で生産されるはちみつがいかに希少で価値あるものかを示しています。

この希少な国産はちみつの中でも、ひときわ異彩を放つのが「離島のはちみつ」です。本土から隔絶された島々は、独自の生態系と手つかずの自然を保持しており、それが蜜源となる植物にも反映されます。

この記事では、日本の離島で育まれるはちみつの奥深い世界を探求し、その魅力と、生産者が直面する課題、そして持続可能な未来への展望を紐解いていきます。

●個性豊かな日本の離島はちみつ巡り

日本の離島は、北から南まで多様な気候と植生に恵まれ、それぞれが個性的な風味と背景を持つはちみつを生み出しています。

小笠原諸島:日本近代養蜂、議論の残る発祥の地

2011年に世界自然遺産に登録された小笠原諸島は、一度も大陸と陸続きになったことのない海洋島であり、独自の生態系を育んでいます。この島が日本のセイヨウミツバチ養蜂の歴史において重要な役割を果たしたことは事実ですが、その始まりの時期については議論が残ります。

長く「明治13年(1880年)に武田昌次が養蜂に着手した」とされてきましたが 、近年の研究では「明治11年(1878年)に持ち込まれた」とする説も提唱されています 。

いずれにせよ、この島で始まった養蜂が日本の近代養蜂の礎の一つとなったことは間違いありません。蜜源となる植物も独特で、固有種のヒメツバキなどに加え、人々が持ち込んだパッションフルーツやグアバなども利用されています。

これらの花々から集められる「島はちみつ」は、黒糖を思わせる香ばしさと濃厚なコクが特徴です。

奄美・沖縄諸島から屋久島へ:亜熱帯の恵み

亜熱帯の温暖な気候に恵まれた奄美群島や沖縄諸島は、年間を通じて多様な花が咲き誇る養蜂の好適地です。一方、同じく鹿児島県に属する世界自然遺産・屋久島では、島の豊かな植生を活かした「定地養蜂」が行われています。

ミツバチの巣箱を移動させず、春先のタンカンから季節の移ろいと共に様々な花々の蜜を集めることで、屋久島の大自然そのものの味を楽しむことができます。

甑島と対馬:伝統と革新が息づく島々

鹿児島県の薩摩川内市に属する「甑島(こしきしま)」では、看護師でもある小林恵さんが、島のベテラン漁師の指導のもと、ニホンミツバチの養蜂事業「こしきハニーのぶ工房」を立ち上げ、島の活性化に貢献しています 。

また、長崎県の対馬では、丸太をくり抜いた「ハチ洞」と呼ばれる伝統的な巣箱を用いたニホンミツバチの養蜂が古くから行われてきました。その技術は朝鮮半島から伝わった可能性も指摘されており、歴史的な深みを感じさせます。

●魅力の裏にある課題:離島養蜂が直面する現実

唯一無二の魅力を持つ離島のはちみつですが、その生産の裏には、離島ならではの厳しい現実が存在します。

輸送コストという壁

離島で生産された産品が本土の消費者に届くまでには、高い輸送コストがかかります。政府は「特定有人国境離島地域社会維持推進交付金」といった制度を設け、農水産品の輸送コストの一部を支援していますが 、依然として生産者の経営を圧迫する大きな要因です。

外来種がもたらす生態系への影響

近年、生態系や養蜂業への深刻な影響が懸念される特定外来生物「ツマアカスズメバチ」の侵入が問題となっています。日本では2012年に長崎県対馬で初めて定着が確認され、その後、壱岐でも個体が見つかりましたが、記事で言及されている島根県隠岐諸島での侵入は確認されていません 。

一方で、養蜂で広く利用されるセイヨウミツバチ自体も、明治時代に導入された外来種です。天敵であるオオスズメバチが存在しない小笠原諸島では、養蜂場から逃げ出したセイヨウミツバチが野生化しやすい環境にあります。沖縄県でも野生化が確認されており、在来のハナバチ類との競合や、固有植物の受粉バランスを崩すなど、生態系への影響が懸念されています 。

●まとめ:一滴の先に広がる、島の未来

離島で採れるはちみつは、単なる甘味料ではありません。それは、島の歴史、独自の生態系、そして人々の営みが凝縮された、まさに「島のそのもの」を味わう体験です。

輸送コストや外来種問題といった課題は確かに存在しますが、それらを乗り越えようとする生産者の情熱と、島の自然が織りなす唯一無二の価値が、私たちを惹きつけてやみません。

国産はちみつを選ぶ機会があれば、ぜひその背景にある「島」の物語に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。

参考文献

[1] 農林水産省. (令和7年11月). 養蜂をめぐる情勢.

[2] 一般社団法人日本養蜂協会. (n.d. ). 養蜂の歴史.

[3] 貝瀬収一. (2020 ). 小笠原諸島への養蜂の移入. 東京都立大学リポジトリ.

[4] こしきハニーのぶ工房. (n.d. ). 公式サイト.

[5] 内閣府. (n.d. ). 特定有人国境離島地域社会維持推進交付金交付要綱.

[6] 島根県. (n.d. ). 外来種 – 島根の野生動物・植物.

[7] 沖縄県. (令和2年3月 ). セイヨウミツバチ適正管理計画.

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