世界には3,000種類以上のはちみつがある?
一本のはちみつから、世界を旅する
世界には、いったい何種類のはちみつがあるのでしょうか。
アカシア、れんげ、みかん、そばといった日本でなじみのあるものから、マヌカ、ユーカリ、ラベンダー、タイム、ローズマリー、コーヒー、アボカドまで、世界には多種多様なはちみつがあります。
はちみつについて調べると、
「世界には3,000種類以上のはちみつがある」
という数字を目にすることがあります。
3,000種類と聞いても、あまりに数が多く、具体的には想像しにくいかもしれません。
毎日違う種類を食べても、すべてを味わうまでに8年以上かかります。
本当に世界には、それほど多くのはちみつがあるのでしょうか。
結論から言うと、「3,000種類以上」は、世界の蜜源別バラエティを表す実用的な目安として使われています。
一方で、世界中のはちみつを一つずつ調査して集計した、国際的な公式統計ではありません。
世界共通のはちみつ台帳があるわけでも、「ここからここまでを一種類とする」という統一ルールがあるわけでもないからです。
したがって、正確には、
世界には名前を付けて流通するはちみつが少なくとも数千種類あると考えられるが、厳密な総数は決められない
という答えになります。
アメリカだけでも300種類以上
米国のNational Honey Boardは、アメリカ国内だけでも、異なる花に由来する300種類以上のはちみつが入手できると紹介しています。
クローバー、オレンジブロッサム、ブルーベリー、アボカド、セージ、そばなど、農作物や野生植物からさまざまなはちみつが採られています。
アメリカは国土が広く、気候や植生も地域によって大きく異なります。
フロリダ州では、テュペロと呼ばれる樹木の花から採れるテュペロ蜂蜜が知られています。
アパラチア山脈周辺では、サワーウッドという樹木に由来する蜂蜜があります。
北部やアラスカなどでは、森林火災や伐採の後に咲くファイヤーウィードから、色の淡い蜂蜜が採られます。
南西部では、乾燥地帯に生育するメスキートの花も蜜源になります。
これらはすべて「アメリカ産蜂蜜」ですが、色、香り、甘さ、余韻は同じではありません。
国名だけでは、はちみつの個性を説明できないのです。
アメリカだけで300種類以上あるとすれば、ヨーロッパ、アジア、オセアニア、アフリカ、中南米を合わせた世界全体が数千種類規模になるという説明も、不自然ではありません。
世界のはちみつが多様になる三つの理由
世界に数千種類のはちみつが生まれる背景には、大きく三つの理由があります。
1.蜜源となる植物が違う
はちみつの味や香りを大きく左右するのが、ミツバチが蜜を集めた植物です。
寒冷地と熱帯地域では、咲いている植物が違います。
同じ温帯地域でも、森林、草原、果樹園、山岳地帯、海岸では植生が異なります。
人間が栽培する農作物だけでも、りんご、みかん、コーヒー、アボカド、ブルーベリー、菜の花、ひまわりなど、さまざまな植物が蜜源になります。
さらに、地域に固有の野生植物があります。
その土地にしか広く生育していない植物から採れるはちみつは、産地そのものを象徴する商品になります。
2.同じ植物でも、土地によって変わる
同じアカシア蜂蜜でも、日本、ハンガリー、ルーマニア、中国では、まったく同じものにはなりません。
気温、雨量、土壌、標高、開花時期、周辺に咲く植物が違うからです。
ミツバチは表示された蜜源以外の花にも訪れます。そのため、主役となる花が同じでも、周囲の植生が変われば、香りや味の背景も変化します。
ワインの世界で「テロワール」という言葉が使われるように、はちみつにも土地の個性があります。
3.季節や年によって変わる
植物が出す蜜の量や状態は、天候に左右されます。
気温が低ければ開花が遅れることがあります。雨が多ければ、ミツバチが十分に飛べません。反対に、極端な高温や乾燥によって、花が蜜をあまり出さなくなる場合もあります。
同じ土地、同じ植物、同じ養蜂家が採ったはちみつでも、毎年味が少しずつ変わります。
蜜源、産地、採蜜時期、収穫年を細かく区別すれば、はちみつの種類は事実上、限りなく増えていきます。
ニュージーランドのマヌカ蜂蜜
世界的に知名度が高いはちみつの一つが、ニュージーランドのマヌカ蜂蜜です。
マヌカは、ニュージーランドなどに自生するフトモモ科の植物です。その花から採れるはちみつには、独特の濃厚な風味があります。
マヌカ蜂蜜が他のはちみつと大きく違うのは、蜜源名だけでなく、UMFやMGOなどの指標が商品選びに使われていることです。
ただし、数字が高ければ、誰にとっても無条件に優れた食品になるわけではありません。
高い数値の商品ほど価格も上がりやすく、日常的な甘味料として使うのか、特徴的な食品として少量を味わうのかによって、適切な選び方は異なります。
「マヌカ」という名前だけで判断せず、原産国、検査表示、認証、販売元などを確認する必要があります。
有名な蜂蜜ほど、名称のイメージだけで高価格商品を選ばない視点が重要です。
オーストラリアのユーカリ蜂蜜
オーストラリアを代表する蜜源の一つがユーカリです。
ユーカリと聞くと一種類の樹木を想像するかもしれませんが、ユーカリの仲間には非常に多くの種があります。
どのユーカリを蜜源とするかによって、採れるはちみつの色や香りも変わります。
淡く穏やかなタイプもあれば、濃い色と力強い風味を持つものもあります。
したがって、「ユーカリ蜂蜜を食べたことがある」というだけでは、ユーカリ蜂蜜全体を知ったことにはなりません。
同じ植物名の中に、さらに多くのバリエーションが存在する。
これも、世界のはちみつを単純に数えられない理由の一つです。
地中海の香草から生まれる蜂蜜
地中海沿岸では、タイム、ローズマリー、ラベンダーなど、香りの強い植物から個性的なはちみつが採られます。
ギリシャではタイム蜂蜜、スペインではローズマリー蜂蜜やオレンジの花から採れる蜂蜜、フランスではラベンダー蜂蜜などが知られています。
同じ植物の香りが、そのまま香水のように強く蜂蜜へ移るわけではありません。
しかし、口に入れたときの香りや後味に、花の由来を思わせる個性が表れます。
地中海地域は夏に乾燥しやすく、強い日差しの中で芳香植物が育ちます。
その環境が、地域独特のはちみつ文化を生み出してきました。
パンやチーズ、ヨーグルト、ナッツなど、その地域の食材と一緒に味わうと、はちみつが単独の甘味料ではなく、食文化の一部であることが見えてきます。
ヨーロッパの森で採れる甘露蜜
世界のはちみつを知るうえで外せないのが、甘露蜜です。
一般的なはちみつは、ミツバチが花の蜜を集めて作ります。
一方、甘露蜜は、植物の生きた部分から出る分泌物や、植物の汁を吸う小さな昆虫の排出物などを、ミツバチが集めて作ります。
ヨーロッパでは、モミやトウヒなどの森林に由来する甘露蜜が流通しています。
花畑ではなく、森から採れるはちみつです。
花蜜蜂蜜に比べて色が濃く、甘さの奥にコクや独特の風味を感じるものがあります。
国際食品規格であるCodex規格でも、はちみつは原料由来によって「花蜜蜂蜜」と「甘露蜜」に分けられています。
世界のはちみつを3,000種類以上に細分化できる一方で、大きな分類では二つに整理できるのです。
コーヒーやアボカドからも、はちみつが採れる
私たちが普段、果実や種子を食べている植物も、花を咲かせます。
そして、その花にミツバチが訪れれば、はちみつが生まれる可能性があります。
コーヒーの産地では、コーヒーの花から採れる蜂蜜があります。
コーヒーと聞くと、焙煎した豆の苦い香りを想像しますが、コーヒー蜂蜜がそのままコーヒー味になるわけではありません。
アボカドの花から採れる蜂蜜もあります。一般にイメージされる淡い黄金色とは異なり、濃い色としっかりした風味を持つ商品も見られます。
ブルーベリー蜂蜜も、ブルーベリー果汁を混ぜたものではありません。ブルーベリーの花を主な蜜源として、ミツバチが作ったはちみつです。
ここは、誤解されやすいポイントです。
「○○蜂蜜」という名称は、基本的に果実や香料を加えた味付き蜂蜜ではなく、ミツバチが訪れた植物の名前を示します。
ただし、市場には果汁、香料、ハーブなどを加えた蜂蜜加工品もあるため、商品名だけでなく原材料表示を確認する必要があります。
世界で最も珍しい蜂蜜は何か
「世界で最も珍しいはちみつ」「幻のはちみつ」「最高級のはちみつ」といった表現は、人を引きつけます。
しかし、希少性には複数の意味があります。
- 蜜源となる植物が限られた場所にしかない
- 開花期間が非常に短い
- 天候の影響を受けやすい
- 採蜜できる量が少ない
- 採蜜場所への移動が難しい
- 生産者や巣箱の数が少ない
- 特定の地域文化や物語がある
こうした条件が重なると、価格は高くなります。
ただし、高価格であることと、味や品質が世界一であることは同じではありません。
希少な蜂蜜でも、香りが強すぎて苦手に感じる人はいます。反対に、広く流通しているクローバー蜂蜜やアカシア蜂蜜を、毎日食べやすい優れた蜂蜜と感じる人もいます。
「珍しいから買う」のではなく、
なぜ珍しいのか。
どこで採れたのか。
誰がどのように採ったのか。
自分はどのように味わいたいのか。
ここまで考えて選ぶことが、はちみつを深く楽しむ方法です。
世界の蜂蜜を食べ比べるなら
世界のはちみつを知るために、最初から何十種類も購入する必要はありません。
特徴の異なる5種類を選ぶだけでも、世界の広さを実感できます。
例えば、次の組み合わせです。
- ハンガリー産アカシア蜂蜜
- フランス産ラベンダー蜂蜜
- ギリシャ産タイム蜂蜜
- ニュージーランド産マヌカ蜂蜜
- ヨーロッパ産の森林系甘露蜜
最初に色を比べます。
次に、ふたを開けて香りを確かめます。
その後、少量を口に含み、甘さの強さ、香り、酸味、苦味、コク、余韻を記録します。
パンやヨーグルトに合わせる前に、まずは何も加えずに味わうことがポイントです。
先入観を避けるため、価格や産地を隠して試食するのも面白い方法です。
高価な蜂蜜を必ず一番おいしいと感じるとは限りません。
自分の感覚と市場価格が一致しない体験も、はちみつを学ぶ大切な授業になります。
3,000という数字より、一瓶の違いを見る
世界には、3,000種類を超えるはちみつがあるといわれています。
ただし、これは確定した公式総数ではありません。
蜜源だけで分けるのか、産地や採蜜時期まで区別するのかによって、種類数は変わります。
重要なのは、「本当に3,000種類あるのか」と数字だけを追いかけることではありません。
世界の気候、植物、農業、森林、食文化が違うからこそ、多様なはちみつが生まれる。
そのことを理解する方が、はるかに価値があります。
はちみつを一瓶選ぶことは、世界のどこかで咲いた花と、その土地を飛んだミツバチに出会うことです。
ニュージーランドの低木地帯。
オーストラリアのユーカリ林。
地中海沿岸のハーブ畑。
ヨーロッパの深い森林。
アメリカ南部の湿地。
中南米のコーヒー農園。
一本のはちみつの背景には、その土地の風景があります。
世界のはちみつは、単なる甘味料のコレクションではありません。
植物とミツバチと人間が作り上げた、食べられる世界地図なのです。
次回は、「単花蜜は、本当に一種類の花だけからできているのか」を取り上げます。
ミツバチに花を指定することはできないのに、なぜ「アカシア蜂蜜」「れんげ蜂蜜」と表示できるのでしょうか。
単花蜜の意味と、その名称をどのように考えればよいのかを詳しく見ていきます。
※はちみつは、乳児ボツリヌス症を防ぐため、満1歳未満の乳児には与えないでください。
主な参考資料
- National Honey Board「Honey Varietals」
- FAO・WHO「Codex Standard for Honey」
- 一般社団法人日本養蜂協会「ハチミツQ&A」
- 添付調査資料「世界には何種類ぐらいのはちみつがあるのか」