ハチミツから生まれるお酒「ミード」とは?~世界の飲用文化と、料理との楽しみ方

ワインはブドウ、ビールは麦、日本酒は米から造られます。では、ハチミツを発酵させると何ができるのでしょうか。その答えが「ミード(mead)」です。

日本ではまだ見かける機会の少ないお酒ですが、ヨーロッパやアフリカなどでは、長い歴史を持つ伝統的な発酵飲料として受け継がれてきました。

一口にミードといっても、白ワインのようにすっきりした辛口から、デザートワインのような濃厚な甘口、シャンパンを思わせる発泡タイプまで、味わいは実にさまざまです。今回は、ミードの造り方や種類だけでなく、どのような国で親しまれ、どんな場面や食事とともに飲まれているのかを紹介します。

ミードは「ハチミツを発酵させたお酒」

ミードは、基本的にはハチミツを水で薄め、酵母を加えて発酵させた醸造酒です。ワインや蒸留酒にハチミツを加えて甘くしたものではなく、ハチミツに含まれる糖そのものを、酵母がアルコールへ変える点に特徴があります。1

基本的な原料は次の3つです。

酵母は、ハチミツに含まれるブドウ糖や果糖などを取り込み、アルコールと二酸化炭素、さらに香りや味を構成するさまざまな成分を生み出します。

一般的なミードのアルコール度数はワインに近いものが多く、研究文献ではおおむね8~18%程度の伝統的な製品が紹介されています。一方、現在は3~7%ほどの軽快なタイプや、炭酸を含む飲みやすい商品も造られています。23

ハチミツなのに、必ずしも甘いとは限らない

「ハチミツのお酒」と聞くと、とろりと甘い酒を想像するかもしれません。しかし、ミードの甘さは、発酵後にどれだけ糖が残っているかによって変わります。

酵母が糖をほぼ使い切れば、ハチミツの香りを残しながらも辛口になります。反対に、糖を多く残せば、濃厚な甘口に仕上がります。

国際的なミードの審査基準を示すBJCPでは、甘さをドライ、セミスイート、スイートに、炭酸の程度をスティル、微発泡、スパークリングに分類しています。アルコール度数についても、軽いハイドロメル、標準的なタイプ、濃厚で強いサックという区分があります。3

つまり、ミードは「甘いか、辛いか」「軽いか、濃厚か」「泡があるか、ないか」という複数の軸で楽しめるお酒なのです。

官能評価研究では、甘さが消費者の好みに強く関係することが示されています。ただし、これは甘口が常に優れているという意味ではありません。食事に合わせる場合は、辛口や発泡タイプのほうが使いやすいこともあります。4

「世界最古のお酒」は本当?

ミードは、しばしば「人類最古のお酒」と紹介されます。

その根拠としてよく挙げられるのが、中国・河南省の賈湖遺跡です。土器に残された成分の分析から、紀元前7000年ごろ、米、ハチミツ、果実を使った混合発酵飲料が造られていたことが報告されています。5

ただし、この飲み物はハチミツだけを発酵させたミードではありません。米や果実も含む混合酒です。そのため、より正確には次のように表現するのがよいでしょう。

ハチミツを利用した発酵飲料は、人類最古級の酒の一つである。

純粋なミードが最初にいつ、どこで造られたのかを一つの地域に特定することは困難です。水の入った木の洞や容器にハチミツが混ざり、野生酵母によって自然発酵する現象は、養蜂以前の社会でも起こり得たと考えられます。

やがてミードは、ヨーロッパ、アフリカ、アジアのさまざまな地域で、それぞれ異なる文化をまとって発展しました。

ミードにはどんな種類がある?

ハチミツ、水、酵母を中心に造るものは、一般に「トラディショナル・ミード」と呼ばれます。そこに果実、香辛料、ハーブ、麦芽などを加えると、別のスタイルになります。3

種類特徴
トラディショナル・ミードハチミツ、水、酵母を中心に造る基本形
メロメル果実を加えたミード
サイザーリンゴ果汁やリンゴを使うミード
パイメントブドウ果汁やブドウを使うミード
メセグリンハーブやスパイスを加えたミード
ブラゴットハチミツに麦芽を組み合わせる、ビールに近いミード
スパークリング・ミード炭酸を含む発泡タイプ
ハイドロメル比較的低アルコールで軽快なタイプ

同じハチミツでも、花の種類によって香りや色は変わります。オレンジの花のハチミツなら華やかなフローラル香、そば蜜や栗蜜など色の濃いハチミツなら、モルト、木、土、カラメルを思わせる力強い風味が現れることがあります。

ただし、原料の個性がそのまま残るとは限りません。酵母、発酵温度、残糖、酸味、熟成期間などによって、仕上がりは大きく変化します。ミードは、ハチミツの種類と醸造技術の両方によって完成するお酒です。

ミード文化が息づく国々

「世界でどの国が最も多くミードを飲んでいるか」を比較できる統一的な消費統計は、ワインやビールほど整備されていません。ここでは単純な消費量ランキングではなく、現在も伝統、祭礼、酒場、商品文化の中にミードが確認できる地域を紹介します。

POLANDポーランド――濃厚な「飲むハチミツ」の伝統

ポーランドではミードを「ミュット・ピトヌィ(miód pitny)」、直訳すれば「飲むハチミツ」と呼びます。

ポーランド農業・農村開発省は、同国のミード造りには1000年以上の伝統があり、10~12世紀の記録にも蜂蜜酒に関する記述があると紹介しています。6

ポーランドの特徴は、仕込みに用いるハチミツと水の比率によって、伝統的なタイプが細かく分かれていることです。ハチミツの割合が高いものほど濃厚で甘く、長期熟成に向きます。代表的な名称には、プウトラク、ドゥヴイニャク、トゥルイニャク、チュフルニャクがあります。これらの伝統的分類はEUの「伝統的特産品保証」にも関係する、ポーランド独自の食文化です。7

濃厚な甘口タイプは、食後酒として少量ずつ味わう飲み方が向いています。熟成チーズ、ナッツ、焼き菓子、リンゴやプラムを使ったデザートと合わせやすく、比較的軽いタイプなら、ローストした肉、ソーセージ、煮込み料理なども候補になります。

LITHUANIAリトアニア――祝いの席と長期熟成の「ミドゥス」

リトアニアでは、ミードは「ミドゥス(midus)」と呼ばれます。

リトアニア国立文化センターの資料では、ミドゥスは宴会や特別な行事で供された、古くからの儀礼的・伝統的な飲み物として紹介されています。子どもの誕生時にミードを仕込み、その子の結婚式まで熟成させたという習慣も記録されています。8

ここでは、ミードは単なる日常酒というより、時間を蓄え、家族の節目を祝う酒でした。

伝統的なリトアニアのミードには、ホップ、ジュニパーベリー、ハーブなどを使うものがあります。こうした香草系のミードは、燻製肉、ソーセージ、ライ麦パン、キノコ料理、熟成チーズなど、香りの強い料理と合わせやすいでしょう。

ETHIOPIAエチオピア――酒場で人をつなぐ蜂蜜酒「テジ」

エチオピアの伝統的な蜂蜜酒は「テジ(tej)」と呼ばれます。

テジはハチミツと水を自然発酵させ、ゲショと呼ばれる植物を加えて造るのが特徴です。ゲショは苦味や渋味を与え、ハチミツの甘さを引き締めます。自然発酵に依存する伝統製法では品質にばらつきが出やすく、近年は発酵を安定させるスターター培養の研究も進められています。9

エチオピアには「テジ・ベット」と呼ばれる、テジを飲むための酒場文化があります。現地取材では、ビーカーに似た小さなグラスでテジを飲み、会話を楽しむ様子や、サンブーサ、ゆでた豆・ナッツなどの軽食を売る人々の姿が記録されています。10

テジは、料理との厳密なペアリングを追求するワインというより、人が集まり、語り合う空間を成立させる社会的な飲み物という側面が強いのです。

FINLANDフィンランド――春祭りに飲む「シマ」

フィンランドには、ミードの近縁飲料として「シマ(sima)」があります。現代のシマは、レモン、砂糖、水、酵母などで造られる低アルコールまたはほぼノンアルコールの発酵飲料が多く、ハチミツを主原料とする一般的なミードとは区別が必要です。それでも、歴史的にはミードにつながる飲み物として紹介されます。

シマが登場するのは、4月30日から5月1日に行われる春の祭り「ヴァップ」です。フィンランド政府観光局は、ヴァップにシマとドーナツ、細い生地を揚げた菓子ティッパレイパを楽しむ習慣を紹介しています。11

ここでの蜂蜜系発酵飲料は、重厚な食後酒ではありません。春の訪れを祝う、明るく軽快な季節の飲み物です。

UNITED STATESアメリカ――伝統酒を自由に再解釈するクラフト文化

アメリカでは、ミードは古い伝統の保存というより、クラフトビールやサイダーに近い発想で再解釈されています。

米国の酒類・たばこ税貿易管理局では、ラベル上の「mead」「honey wine」を、基本的にハチミツを原料とするワインとして扱っています。12 現代の醸造所では、ベリー、リンゴ、ブドウ、ホップ、唐辛子、コーヒー、カカオなどを使った自由な商品が造られています。

ワイングラスで味わう高アルコールタイプだけでなく、低アルコール・炭酸タイプを、ハンバーガー、バーベキュー、タコス、ピザなどと楽しむのも現代的なスタイルです。古い飲み物でありながら、新しい原料や飲み方を受け入れやすいことが、ミードの面白さといえるでしょう。

料理と合わせるときの基本

ミードのペアリングでは、「ハチミツだからデザート」と決めつけないことが大切です。まず、ラベルや商品説明から、甘さ、炭酸、アルコール度数、副原料を確認します。そのうえで、ワインと同じように考えると合わせやすくなります。

辛口ミード

白ワインに近い感覚で使えます。白身魚、鶏肉、豚肉、貝類、サラダ、山羊乳チーズ、白カビチーズなどが候補です。ハチミツ由来の花や果実の香りが、淡泊な料理に奥行きを与えます。13

セミスイート

穏やかな甘さは、塩味や辛味のある料理と好相性です。生ハム、青カビチーズ、照り焼き、スパイスカレー、麻婆豆腐、韓国料理などに合わせると、甘味が塩味や辛味を和らげます。

甘口・濃厚タイプ

デザートワインのように、小さなグラスで食後に楽しみます。ナッツ、熟成チーズ、ドライフルーツ、アップルパイ、チーズケーキ、ダークチョコレートなどが候補です。デザートのほうがミードより甘すぎると、お酒が酸っぱく、薄く感じられることがあります。

スパークリング・ミード

炭酸は口の中の脂を流してくれるため、揚げ物や脂のある料理に向きます。フライドチキン、天ぷら、ポテト料理、ソーセージ、ピザなど、カジュアルな料理にも合わせやすいタイプです。

スパイス・ハーブ系

シナモン、クローブ、ジンジャー、ジュニパーなどを使ったミードは、ロースト肉、燻製料理、ソーセージ、煮込み料理と合わせやすくなります。料理側の香辛料とミード側の香りを一つだけ共通させると、全体がまとまりやすくなります。

日本の食卓なら、何と合わせる?

日本でミードを紹介するなら、洋食だけでなく、醤油、味噌、みりんを使う料理との相性にも注目できます。ハチミツの香りや穏やかな甘味は、照り焼きや甘辛い煮物とつながります。一方、酸味や炭酸のあるミードは、天ぷらや唐揚げの油をさっぱりさせます。

ペアリングに絶対的な正解はありません。ミードと料理の「甘味の強さ」と「香りの強さ」をそろえ、酸味や炭酸で重さを調整すると、失敗しにくくなります。

ミードは健康酒なの?

ハチミツ由来でも、アルコール飲料です

ハチミツにはフェノール化合物や香気成分などが含まれ、その一部がミードに残る可能性があります。しかし、ミードはあくまでアルコール飲料です。

「ハチミツのお酒だから体によい」「発酵飲料だから健康効果がある」と考えるのは適切ではありません。WHOは、飲料の種類や品質にかかわらず、健康リスクの中心となるのはエタノールであり、健康に影響を及ぼさない安全な飲酒量を設定することはできないと説明しています。14

甘口のミードは、アルコールに加えて残糖も含みます。飲みやすくても度数が高い場合があるため、ラベルを確認し、小さめのグラスでゆっくり味わうことが大切です。

日本での自家醸造には注意

アルコール分1度以上の製造には、原則として免許が必要

ハチミツ、水、酵母があれば造れそうに見えるため、海外のレシピを参考に自宅で試したくなるかもしれません。

しかし、日本の酒税法では、アルコール分1度以上の飲料を製造するには、原則として酒類製造免許が必要です。無免許での発酵酒製造は、自分で飲むだけであっても認められていません。15

焼酎に梅などを漬ける自家製梅酒の特例と、ハチミツを酵母で発酵させて新たにアルコールを生じさせるミード造りは、法的に異なります。ミードを知りたい場合は、まず市販品や醸造所の試飲イベントなどを利用するのが安全です。

ミードを飲むことは、ハチミツの土地と時間を味わうこと

ミードには、一つの決まった味も、世界共通の飲み方もありません。

ポーランドでは長期熟成させる濃厚な伝統酒、リトアニアでは家族の祝いと時間を結ぶ酒、エチオピアでは酒場で人をつなぐテジ、フィンランドでは春を祝うシマ、アメリカでは自由なクラフト飲料として楽しまれています。

共通するのは、ハチミツが単なる甘味料ではなく、その土地の花、季節、養蜂、発酵文化を映す原料になっていることです。

最初の一本を選ぶなら、「ミードは甘いもの」と決めつけず、甘さ、アルコール度数、炭酸の有無、使われているハチミツや副原料を確認してみてください。

グラスの中に感じる花の香りや果実味の向こうには、ミツバチが集めた蜜と、それを酒へ変えてきた人々の長い文化があります。

参考文献・情報源

  1. 一般社団法人 日本ミード協会「ミードとは」
  2. Iglesias A, et al. Developments in the Fermentation Process and Quality Improvement Strategies for Mead Production. Molecules. 2014.
  3. Beer Judge Certification Program: Introduction to Mead Guidelines
  4. Gomes T, et al. Influence of Sweetness and Ethanol Content on Mead Acceptability. Polish Journal of Food and Nutrition Sciences. 2015.
  5. McGovern PE, et al. Fermented beverages of pre- and proto-historic China. PNAS. 2004.
  6. ポーランド農業・農村開発省「Miód Pitny Trójniak」
  7. Polish Investment and Trade Agency: Miody pitne z Lublina idą w świat
  8. Lithuanian National Culture Centre: Drinks—Mead, Midus
  9. Fentie EG, et al. Development of mixed starter culture for the fermentation of Ethiopian honey wine, Tej. Scientific Reports. 2022.
  10. Los Angeles Times: Capturing tej bet—The art of drinking Ethiopia’s honey wine
  11. Visit Finland: Vappu—Celebration of the Spring in Helsinki
  12. Alcohol and Tobacco Tax and Trade Bureau: Mead/Honey Wine Resources
  13. Oliver Winery: New Ways to Pair Mead
  14. WHO Europe: No level of alcohol consumption is safe for our health
  15. 国税庁「自家醸造」
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